リネゾリドの非結核性抗酸菌に対する効果について

リネゾリドが非結核性抗酸菌(NTM)に有効であったとする症例報告です。
概要を翻訳しました。

Successful treatment of refractory disseminated Mycobacterium avium complex infection with the addition of linezolid and mefloquine.
J Infect. 2002 Apr;44(3):201-3.

症例
 CLLを基礎疾患として持つ59歳の男性。10年来CLLに対し、フルダラビン、プレドニゾロン、サイクロホスファミド、リツキシマブ、CAMPATH1-Hなどによる治療を受けてきた。右臀部と左大腿、下腿に皮膚の硬化と疼痛を自覚し、皮膚生検でMycobacterium avium complex(MAC)が検出された。腎機能、肝機能に特に問題は見られず、喀痰からは抗酸菌は検出されなかった。CTの結果、腋下、縦隔、腹腔内にリンパ節の腫大を認めたが、CLLの再燃として矛盾のない所見と考えられた。
 皮膚病変に対し、エンピリック・セラピーとしてCAM 500mg, RFP 600mg, INH 300mg, LVFX 500mgを開始。MACの関与が明らかになった時点で、EB, AZM, LVFX併用に変更となっている。その後特に改善は認められず、LVFX,AZMを増量したが右手関節の腱滑膜炎合併もあり、4ヶ月後にLVFXをMFLXに変更、mefloquine追加、AZMをCAMに変更...をそれぞれ行った。さらに、このレジメンにリネゾリドを追加したところ、すべての皮膚病変が改善し、外科的処置なしで腱滑膜炎も改善した。その後も進行したCLLに対して集学的な化学療法が行われたが、MAC症の再発は見られなかった。なお、このPt.はその後E.coliの敗血症で死亡したが、剖検は行われなかった。

考察
 非結核性抗酸菌症、特にKansasiiとMACは、免疫能が低下した患者に対して播種性の感染症を引き起こす。播種性MAC症は典型的には肺や網内系を侵し、皮膚病変は比較的稀とされる。
 進行したCLLに合併する感染症は、(1)CLL自体による液性免疫/細胞性免疫の障害により、(2)CLLに対する治療により、免疫能が障害されており、病態は複雑である。フルダラビンのようなプリン拮抗薬やCAMPATH1-H(抗CD52抗体)、リツキシマブ(抗CD20抗体)は、T細胞の障害に基づく日和見感染症として、ニューモシスチス・イロベチー、リステリア、ヘルペス・ゾースター、種々の真菌感染症を引き起こしうる。
 当症例は、以下の3点が特徴的と思われた。
(1)播種性MAC症が皮膚に限局して認められた。
(2)HIV感染が基礎に無いにもかかわらず、通常のMAC療法に抵抗性であった。
(3)リネゾリドとメフロキンの追加により改善が認められた。