新種の細菌感染が拡大

産経ニュースで興味深い記事を読みました。
「新種の細菌感染が拡大 ベルギーで初の死者」

出典はLancet Infectious Disease誌です。早速原文を読んでみました。

"Emergence of a new antibiotic resistance mechanism in India, Pakistan, and the UK: a molecular, biological, and epidemiological study"

この論文は、インド、パキスタン、イギリスなどで、β-ラクタマーゼの一種であるNDM-1(New Delhi metallo-β-lactamase)産生菌の分離頻度を調べたものです。その結果、菌種としてはE. coliK. pneumoniaeが殆どを占めており、MICを測定したところ、これらの菌株はカルバペネム系抗菌薬を含むβラクタム系薬だけでなく、ニューキノロン系、アミノグリコシド系など、グラム陰性桿菌の治療に有用である殆どの抗菌薬に耐性を示していました。調査の対象となった抗菌薬のうち、チゲサイクリンとコリスチン(いずれも本邦では使用不可)では比較的感受性が保たれていたようです。驚くべき事に、インドにおいてこれらの菌株が検出された症例の基礎疾患は、市中獲得の尿路感染、肺炎が多く含まれており、既にNDM-1をコードする遺伝子blaNDM-1が環境中に拡大している可能性があります。

背景として、インドの特殊な事情が伺われます。インドでは処方箋が無くても抗菌薬が使用できるため、広域抗菌薬の濫用に歯止めが効きにくい可能性があります。その結果か、インドでは腸内細菌の70-90%がESBL産生菌であるため、どうしてもカルバペネム系薬の使用頻度が高くなり、耐性菌の選択圧が高くなるようです。さらに、インドやパキスタンで美容整形を受ける欧米人が多いことから、NDM-1産生菌のさらなる拡大が懸念されます。
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