ARDS

ARDSの基本病態は、両肺のびまん性炎症性変化である。
ARDSにおける肺浸潤は、循環好中球の活性化によると信じられている。活性化された好中球は、粘着性を帯び、肺毛細血管の血管内皮に接着する。そして、細胞質内顆粒(蛋白分解酵素、毒性のある酸素代謝物など)を放出し内皮細胞を傷害することで、血管透過性亢進型の肺水腫を惹起する。
このように、ARDSはしばしば肺水腫の1つの型として分類されるが、ARDSは炎症過程であって、単なる肺への水分貯留ではない。
したがって、全身性炎症をもたらす病態はARDSへと進展する可能性がある。そのなかでも敗血症は、最も一般的な原因である。ARDSで肺傷害を起こすのは感染ではなく炎症であり、炎症と感染を鑑別することが重要である。
ARDSの最も初期の臨床像は、ARDSを起こしやすい病態にみられる頻呼吸と進行する低酸素血症である。この低酸素血症は、酸素投与にしばしば抵抗性である。胸部X線写真では、発症後最初の数時間は変化を認めないことがあるが、24時間以内に両側性の肺浸潤影が出現する。
ARDSに類似の臨床像を呈するものに、肺炎、急性肺塞栓、心原性肺水腫がある。
胸部X線写真ではARDSと心原性肺水腫を鑑別することは困難である。
健常者では肺胞洗浄液中の好中球は全細胞の5%未満だが、ARDS患者では80%もが好中球である。この肺胞洗浄液における好中球の優位は、ARDSと心原性肺水腫との鑑別に役立つことがある。しかし、肺炎との鑑別には役立たない。

ARDSにおける炎症性肺障害の進行を阻止する特異的な治療法が無いため、ARDSでは、一般に次のような管理目標が設定される。(a)医原性肺傷害予防、(b)肺内水分量減少、(c)組織酸素化維持。
ARDSでは、治療の大部分が肺に対するものであるにもかかわらず、呼吸不全が死因であったものは15-40%でしかない。死因の殆どは多臓器不全による。このことはARDSが多臓器傷害の一形態にすぎないことを示しており、肺に焦点をおく治療戦略の限界を強調している。
ARDSにおける病理学的変化は均一ではなく、正常組織内に浸潤部分が混在する。正常な肺組織に一回換気量の大部分が分配されるため、過膨張に伴う肺胞破裂や、サーファクタント枯渇、肺胞-毛細管構築の破壊が生じる。
一回換気量が低値であればPEEPを5-10cmH2O付加することで、無気肺と呼気における末梢気道閉塞を防止する。一回換気量が5-8ml/kgになると二酸化炭素の蓄積が生じるが、副作用が無ければこの高二酸化炭素血症は容認される(permissive hypercapnia)。
ARDSにおける肺浸潤は炎症の過程であり、利尿薬では炎症を抑えることが出来ない。したがって、利尿薬がARDSの肺水分量を必ずしも減少させないことは驚くに当たらない。ARDSの病態から言えば、肺水分量を減少させるための利尿薬のルーチンの使用は勧められない。
ARDSの肺浸潤は炎症性の滲出であり、そのためその輸液療法も肺炎患者におけるそれと異なるものではない。
輸液の適応がない場合は、心拍出量を増加させるためにドブタミンを用いる。ドパミンは肺血管を収縮させるので投与を避ける。
ARDSと診断されてから24時間以内に、大量のメチルプレドニゾロン投与が行われたが、予後の改善も死亡率の改善も認められなかったとする報告がある。
ある研究では、ARDSでのステロイド投与が死亡率上昇と関連があったとしている。
大量のメチルプレドニゾロンが敗血症患者に予防的に投与されたが、ARDSの発症を抑制しなかった。
大量メチルプレドニゾロン投与を受けたARDS患者で、二次感染が増加した。
肺線維化の進行がみられた晩期ARDS(発症2週間後)の25人の患者に大量メチルプレドニゾロンを投与したところ、21人に症状の改善が認められ、治療に反応した患者の86%が生存した。

ICUブック第2版 P.308-319

ICUブック

ICUブック

  • 作者: PaulL. Marino,稲田英一,長谷場純敬,唐沢富士夫
  • 出版社/メーカー: メディカルサイエンスインターナショナル
  • 発売日: 2004/03
  • メディア: 単行本
  • クリック: 4回
  • この商品を含むブログ (5件) を見る