HIV感染症におけるカレトラの位置づけ

カレトラは米国保険福祉省(DHHS)のガイドラインにおいて、PIをキードラッグとしたレジメンの中で推奨薬の1つと位置づけられている。
カレトラをキードラッグとしてHAARTを継続していくうえでは、下痢、高脂血症・耐糖能悪化、精神科薬との併用、徐脈性不整脈に注意する必要がある。
HIVそのものにも心筋炎や心臓への影響があり、核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)もミトコンドリア毒性により心臓に影響を与えることから、高齢者は、HIV感染期間が長いことと、併用する薬剤数が多いという、二つのリスクを背負っていることになる。
免疫再構築症候群(IRS)については、回避策としてキードラッグに少し弱めの薬剤を選ぶという考え方もあるが、あまり効果がないようである。
IRIS回避のためには、例えば国立国際医療センターの場合、ニューモシスチス肺炎の場合は治療後4週間、結核の場合2ヶ月間期間を空けてからHAARTを導入している。非定型抗酸菌感染症サイトメガロウイルス感染症の場合にどれぐらい感覚をあけるべきかは、一定の見解が得られていない。
IRISの発症メカニズムについては、当初はウイルスを抑えると免疫が回復して、それが反応していると言われたが、CD4+Tリンパ球数はそれほど上昇していなくても起きるため、この機序には疑問がもたれている。
カレトラが推奨される状況として、エファビレンツには中枢神経系の副作用が報告されているので、抑鬱や情緒不安定など精神神経系に障害のある症例や、麻薬や覚醒剤の使用歴のある症例にはカレトラが推奨される。
エファビレンツは耐性を獲得しやすいため、アドヒアランスが十分保てない場合や、MAC感染症があるなど中断の可能性が高い場合、カレトラが推奨される。
先日改訂された米国の治療ガイドラインでは、HIV陽性妊婦と針刺し事故に対してもカレトラが推奨薬となった。
エファビレンツには動物実験で催奇形性の報告がある。
HIV陽性の妊婦に対する処方では、LPV/r+AZT+3TCというレジメンがよく選択される。
DHHSによる針刺し事故のガイドラインでは、基本投与と拡大投与に分かれており、重症度の高い場合には拡大投与としてさらに薬剤を追加するが、この拡大投与でカレトラが推奨されている。
我が国でも、東京都で従来の予防薬AZT+3TC+NFVで、NFVからLPV/rに切り替えられた。この理由として、①LPV/rのウイルス抑制効果が高い②耐性のプロフィールが良好③LPV/rは食事に関係なく服用できる…などが挙げられる。
最近、カレトラの長期有効性を検討した720試験が報告された
720試験ではLPV/rをキードラッグにして6年間の追跡を行っている。
未治療のHIV感染者100例中、血中HIV-RNA量5000コピー/mL以上の症例にLPV/r+d4T+3TCを導入し、6年間これを継続できた63例を解析したところ、うち62例で血中HIV-RNA量が50コピー/mL未満となっていた。
また、CD4+T細胞の上昇が6年間続いていた。他剤の試験では、CD4+Tリンパ球の上昇は2-3年でプラトーに達するとされてきた。本試験により、LPV/rをベースにしっかりウイルスを抑えれば、CD4+Tリンパ球が6年間上昇し続けることが示された。
また、リンパ球活性化のマーカーとして血中HLA-DR量とCD38を測定した結果、いずれも6年後には健常者とほとんど変わらない程度に低下し、質の良いCD4+Tリンパ球の増加が保たれていることが示された。
従来は治療に失敗した後のサルベージ薬いう印象があったLPV/rであるが、近い将来さらに強力な薬剤が出てくる背景を考えると、ファーストチョイスとして積極的に使える薬剤になったといえる。